慶應義塾大学の三浦恭子先生と麻布大学の菊水健史先生を招待講演者としてお招きし,社会性をテーマとした研究会を開催します。三浦先生はアリやハチに類似した分業制からなるカースト社会を持つハダカデバネズミを用い,後天的に生じるカーストの決定・転換の神経メカニズムなどについてご研究されています。今回の談話会ではハダカデバネズミのカースト社会と脳神経の可塑性についてご講演いただきます。

菊水先生はマウスなどを用い,母子間、雌雄間で行われる様々なシグナルによるコミュニケーションに注目し,社会性の形成や維持に対する役割についてご研究されています。今回,社会的状況における嗅覚・聴覚コミュニケーションの役割ついてご講演いただきます。また,先生方の講演に先立ち,ヒトとライオンを対象に,その社会性の発達・成立についてご研究されている2名の若手参加者の方々に研究発表をしていただく予定です。最先端の研究成果の知見に触れられる共に,社会性という複雑な現象に対してどのようなアプローチがあるのかディスカッションできる貴重な機会となります。皆様のご来聴をお待ちしております。

日時:2011年12月3日(土)談話会:15:00~18:35, 交流会:19:15~(受付:19:00~)
場所:東京大学本郷キャンパス
薬学系研究科総合研究棟2F講堂(アクセス
会費:談話会:無料,交流会:2,000円程度(予定)

招待講演

講師:
三浦 恭子 先生
(日本学術振興会 特別研究員SPD 慶應義塾大学医学部生理学教室ハダカデバネズミ研究ユニット)
演題:
「ハダカデバネズミ:社会性制御機構、癌、老化研究のための新しいモデル動物」

ハダカデバネズミ(naked mole rat, Heterocephalus glaber) は、アリやハチに類似した分業制(Queen, King: 繁殖、Soldier: 巣の防衛、Worker: 巣 の拡張、餌収集、子育て等)からなるカースト社会をもつ。興味深いことに、ハダカデバネズミのカースト決定は後成的であり、成体において 一旦決定されたカーストは転換され得る。このカースト変化、即ち社会行動変化が起こる際には、成体脳において神経新生や神経回路の再編成 等が生じることが予想されるが、詳細は不明である。われわれは現在、社会行動を制御する成体脳神経可塑性の分子基盤の解明のため、ハダカ デバネズミを簡易版社会モデルとして起用し、解析を開始している。ハダカデバネズミは体長10cmほどであるが、げっ歯類に異例の長寿命(平均28年)、 超癌化耐性(長寿命にもかかわらず、自発的な腫瘍発生がみられない)という非常に興味深い特徴も併せ持つ。これらの特性から、ハダカデバ ネズミは癌研究・老化研究の新規モデルとしても非常に有用であると考えられる。将来的に、新規抗老化因子、新規抗癌化因子の同定が見込まれる。

我々は現在、上記の脳神経研究・老化・癌研究のために、日本で初のハダカデバネズミを用いた分子生物学的研究体制を立ち上げている。本セミナーでは、ハダカデバネズミの紹介を中心に、現在の研究の進展を報告する。

講師:
菊水 健史 先生
(麻布大学獣医学研究科 教授)
演題:
「マウスの社会コミュニケーション」

動物の世界はいまだ科学で解析されてない未知の現象に満ち溢れている。特に動物の感覚能力がヒトよりも長けている場合には、ヒトは想像に頼ってしか、その世界の一部をみるしかなかった。現代社会に至るまで、人間は動物のもつ特殊な能力を、時には神のように崇め、時には悪魔の手先のように処罰してきた。ダーウィンの進化論が定着して以後、動物を見る人間の目は次第に科学的、客観的になり、動物の真の理解へと向かったと言えよう。さらに現代の科学は、さまざまな「目に見えない」情報を得ることを可能にし、脳機能として動物の行動をより詳しくみることが可能となりつつある。特に嗅覚や聴覚を用いたコミュニケーションは、動物の世界では最もよく用いられている情報手段であるにもかかわらず、ヒトの感覚領域を超えた情報が多く用いられているため、その科学的解明には年月を要した感がある。嗅覚は「におい」分子(フェロモンも含めて)として化学物質を信号として成り立つ感覚である。嗅覚が重要な役割を演ずる動物のコミュニケーション行動の具体例として、母子間、なわばり行動、性行動があげられているが、その他にも「秩序ある動物社会を築き、それを維持し、さまざまな行動をコントロールすること」などにも大きく役立っている。つまり、嗅覚の研究は、動物の社会性の研究でもあり、複雑な個体間相互作用の基点ともいえるべき研究であるといっても過言ではない。嗅覚の特徴の一つは、その情報がある程度の時間をもって伝えられ続けることにある。これに対して、聴覚の特徴は非常に速い伝達速度で、一時的に使われるものである。天敵を発見した際の警報コールなどはその典型で、時間と場所の情報をいち早く伝えることが最も大事である。マウスやラットにおいても聴覚を用いたコミュニケーションが多くの場面で行われており、これらはほとんどの場合、50kHz付近のヒトの聴覚域をはるかに超えた音声である。子が巣から離れていった場合のisolation call、雌雄が出会った際のLove Songsなど、実際の社会場面における音声コミュニケーションの役割を紹介する。

これらの行動もすべてが淘汰圧によって、研ぎ澄まされてきた動物の能力の一つといえよう。動物はどのようにしてこのような特徴を得てきたのか、最後に進化的意義について触れ、また高度に複雑化した人間の社会性も、このような動物の社会行動の解析かの発展である点を考察してみたい。

若手発表者

野嵜 茉莉(東京大学総合文化研究科/日本学術振興会)
的場 知之(東京大学総合文化研究科)

プログラム

15:00-15:05開会挨拶
15:05-15:45若手講演(1人20分)
15:45-15:55休憩
15:55-17:10三浦先生講演
17:10-17:20休憩
17:20-18:35菊水先生講演
19:15-交流会

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