第4回脳科学若手の会関西部会セミナー・茶話会
2013.12.08
このたび、関西部会では12/8(日)に京都大学にて第4回冬のセミナーを開催いたします。本セミナーでは、生化学若手でも活躍された北西卓磨博士、ATRの吉田和子博士の二名をお呼びして講演いただく予定です。講演後、交流の場として茶話会を設けています。
講演内容に興味のある方、この分野の色々な人と交流したい方、どなたでもぜひお気軽に足をお運びください。
日時: | 2013年12月8日(日)13:00- |
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場所: | 京都大学理学研究科1号館 生物物理系第一セミナー室 |
ポスター: | こちら(.pdf形式,410KB) |
プログラム
13:00~14:20 | 北西 卓磨 博士 (京都大学 白眉センター 学振特別研究員SPD) |
「シナプス可塑性による海馬回路活動の制御」 | |
14:30~15:50 | 吉田 和子 博士 (国際電気通信基礎技術研究所(ATR)脳情報研究所主任研究員) |
「推定の計算理論と脳内メカニズム」 | |
16:00〜 | 茶話会(参加費300円程度)一時間程度 |
シナプス可塑性による海馬回路活動の制御
北西 卓磨
Kavli Institute for Systems Neuroscience, Norwegian University of Science and Technology
京都大学 白眉センター 松尾研・日本学術振 興会特別研究員SPD
新しい場所 —たとえば学会会場— を 訪れたとき、しばらく歩き回れば、私達はすぐに通路や部屋の位置関係を覚えられる。こうしたすばやい記憶獲得の最中に、神経回路はどのような 情報処理を行うのだろうか? シナプス可塑性は、神経細胞が記 憶学習にともない新たな情報を獲得する仕組みだと考えられている。しかし、生じた可塑的変化が、周囲の神経活動をどう制御するのかは、あまり 知られていない。 私達は、ウイルスベクターとマル チユニット記録を組み合わせた手法を開発し、シナプス可塑性が、海馬の場所細胞 (place cell) の 発火パターンをどう制御するかを調べた。この手法では、遺伝子改変を局所的に行うことで、従来の遺伝子改変動物等における脳機能全般や動物行 動の変化の影響を排し、行動中の動物において局所神経回路の作動メカニズムを単離できる。具体的な手順としては、シナプス可塑性を阻害するGluR1-c-tail遺伝子を、ウイルスベクターを用いて片側の ラットCA1野に局所導入し、遺伝子導入された神経細胞と、反対側同部位の野生型細胞の発火活動をマルチユニッ ト記録で一斉に計測した。その結果、GluR1-c-tailを発現した細胞群では、動物が新奇環境を探 索するときの場所細胞活動 (環境のなかの特定の場所に選択的な発火活動) の形成が遅くなることが分かった。さらに、 この細胞群は、海馬の複数の投射経路のうち、CA3野からCA1野に伝播する脳波 (slow gamma oscillation) に対してのみ、正確なタイミングで応答できなくなった。こうした結果から、海馬CA3→CA1経路におけるGluR1依存性シナプス可塑性が、CA1野の場所細胞活動のすばやい形成に寄与する と考えられる。またこれらの結果は、シナプス可塑性が、細胞レベルでは神経細胞の発火パターンを調節するとともに、回路レベルでは特定の投射 経路の情報伝達を増強するという、2重の役割を持つことを示唆している。学習の 最中に脳領域間の情報の流れをコントロールすることで、発火パターンの形成を手助けするというのが、シナプス可塑性の一般的な役割かもしれな い。
推定の計算理論と脳内メカニズム
吉田 和子
ATR 脳情報通信総合研究所
私達は日常生活の中で、多くの可能な候補の中からより良いと思われる選択肢を選ぶ、意思決定を繰り返しています。 現在の状態を正確に把握し、ある選択を行った際の将来の状態を予測することができれば、最適な意思決定を行うことができます。しかし、実際に環境から得られる情報は多くの場合不確実、不完全です。例えばカードゲームにおいては、相手の手札を見ることができない、すなわち真の状態は隠れ状態となり観測不可能です。ゲームに勝つためには、これまでの状況や相手の行動から相手の手札や戦略を推測し、次の行動を予測することが必要になります。またコミュニケーションのような社会的環境での意思決定には相手の心的状態を表情や行動から読み取ることが重要になります。特に複数人の意思決定に相互関係がある場合には、相手も他者の内部状態を推定していることを考慮に入れ、相手の内部状態モデルを推定する必要があります。講演では、このような複雑な意思決定の原理とその脳内機構を明らかにする一つの方法として、計算モデルを用いたヒトの行動およびfMRI 脳画像データ解析手法について紹介します。研究の手続きとしては、意思決定課題のデザイン、ヒトの行動モデルの構築、脳計測機器を用いた実験、および提案モデルに基づく脳活動解析を行います。脳画像解析に計算モデルを用いることにより、従来型の課題間比較解析では不可能であった、ヒトの内部状態の動的な変化を推定することができるようになります。具体的な課題として、部分観測迷路における状態推定課題と推定に複数人被験者による社会的協調課題を取り上げ、被験者の行動を説明する確率モデルを提案します。モデルに基づく解析結果から、前頭前野を中心とした脳機能の計算メカニズムついて議論します。
参加申込
以下のフォームより,よろしくお願いいたします。
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