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理化学研究所の杉山(矢崎)陽子先生を招待講演者としてお招きし,臨界期をテーマとした研究会を開催します。また,杉山先生の講演に先立ち,3名の若手参加者の方々に研究発表をしていただく予定です。杉山先生と最先端の研究成果についてディスカッションできる貴重な機会となりますので,皆さまのご来聴をお待ちしております。

日時:
2011年1月22日(土)
談話会:16:00-18:45
交流会:19:30-
場所:
東京大学本郷キャンパス(アクセス
会費:
無料(懇親会は2,000-3,000円程度を予定)
招待講演:
杉山(矢崎)陽子先生(理化学研究所 脳科学統合研究センター 研究員)
演題:
「臨界期を制御する神経メカニズムの解明」

私達は子供の時に始めた方が外国語や新しいスポーツを簡単に,早く習得できることを経験から知っています。これは生後発達の特定の時期には経験や環境からの入力に依存して神経回路が柔軟に形成,再構築であり,この時期を「臨界期」といいます。私達はマウスの眼優位可塑性,鳥の歌学習という二つの異なるシステムを用いて,臨界期における可塑性を制御する神経メカニズム,臨界期の時期を決定する神経メカニズムを研究してきました。

左右の眼からの入力が最初に統合される脳内の領域,大脳視覚野の神経細胞は,左右のどちらの眼への視覚刺激にも視覚反応を示しますが,通常どちらかの眼により強い視覚反応を示します。しかし生後の臨界期では,片方の眼を閉じることにより,開いている眼への反応が強くなる方向にその視覚反応を変化させます。これを眼優位可塑性といい,これを利用したものが子供の弱視の治療です。これまでの研究からマウスの大脳視覚野における眼優位可塑性の臨界期は大脳視覚野のGABA抑制性細胞,中でも特定のパルブアルブミン陽性細胞(PV細胞)の発達により制御されていることが明らかになっていました。しかし,このPV細胞自身の可塑性はこれまで報告がありませんでした。そこで私達は生体内における細胞内記録の方法を用いることにより,このPV細胞が見せる双極的な可塑性を発見しました。さらにこの抑制性細胞の可塑性が,視覚野全体の眼優位可塑性を制御していることを示唆しました。

さらに私達は「抑制性機構の発達により決定する臨界期の時期」という法則は他の臨界期にも当てはまるのか,その普遍性を調べてみました。ソングバードと言われる鳥は,生後の発達期にのみ,親の歌を聴くことにより「歌」を学習します。ソングバードの一種であるキンカチョウの歌学習臨界期の始めに,脳内のGABA抑制性機構を早期に増強すると,歌学習が阻害されました。さらに詳細な行動解析,電気生理学的,形態学的解析を行うと,GABA抑制性機構の役割を促進させたことで,キンカチョウの歌学習臨界期の中でも感覚学習期が早期に終了している可能性が示唆されてきました。

これらの研究から,異なる動物,システムに共通する臨界期を制御するメカニズムがあることが示唆されました。どちらのシステムでも,脳内の抑制性機構,特に特定の抑制性細胞PV細胞の発達,成熟によってその臨界期が決定し,臨界期における可塑性も,PV細胞の可塑性が機能的に制御していることが考えられました。動物種やシステムを越えた臨界期を制御する神経メカニズムの可能性について議論します。

若手発表者(予定)

  • 岡部 祥太 (麻布大学大学院獣医学研究科)
  • 小林 恵 (中央大学大学院文学研究科)
  • 伏木 彬 (東京大学大学院新領域創成科学研究科)

スケジュール

16:00-16:05開会挨拶
16:05-17:05若手参加者発表
17:05-17:15休憩
17:15-18:45杉山先生講演
19:30-懇親会

好評につき定員に達したため,募集を締め切らせていただきました。ありがとうございました。